1. Home
  2. レポート/刊行物
  3. 会計情報
  4. 会計基準の国際化をめぐる動向
  5. 第1回 SECのIFRS容認への動き

第1回 SECのIFRS容認への動き

PDF 88KB

1 SECの公開草案の公表

2007年7月2日,米国証券取引委員会(SEC)は,国際財務報告基準(IFRS)に従って作成された外国登録企業の財務諸表を米国基準との調整(reconciliation)なしで受け入れることを容認する公開草案を公表しました。
この提案は,直接的には,SECに登録している外国企業で(日本には数十社しかありません),IFRSに従って(連結)財務諸表を作成している企業(日本には殆どありません)に対するものにすぎません。したがって,日本でこの影響を直接に受ける企業は殆どないと思われます。しかしながら,実はこの提案は,日本の企業にとっても間接的あるいは将来的には大きな影響が生じる可能性のある,要となる提案と言えます。
そこで,今回は,その背景と影響等についてみていきましょう。

2 ECの同等性の評価

欧州連合(EU)市場は従来,米国や日本の企業が資金調達を行う場合,米国や日本の会計基準で作成した財務諸表を受け入れてきました。しかしながら,EU域内の上場企業に対して2005年からIFRSの採用を義務付けたことから,EU市場で資金調達を行うEU域外(たとえば,米国や日本)の企業に対しても,IFRS又はIFRSと同等の基準の採用を義務付けることにしました。
言い換えれば,IFRSと同等の基準と認められない基準については,EU市場での採用は認められないことになりました。
ここで,どういった基準がIFRSと同等の基準となるか,現在EU市場で使用されている米国や日本の基準はIFRSと同等であるのかが問題となります。そのため,2005年7月,欧州証券規制当局委員会(CESR)は,欧州委員会(EC)の依頼に基づき,米国,カナダ,日本の基準について,IFRSと同等であるかどうかの評価を行いました。米国の基準は国際的に使用されている基準ですが,一国の基準であることにはかわりはなく,他の基準と同様の評価が行われたということです。
当該評価の結果,CESR はECに対して,これら三国の基準は,全体としてIFRSと同等だが補正措置が必要という助言を行いました。ECはこの助言を検討し,同等性について評価を行いますが,2009年1月(当初は2007年でしたが2年間の移行期間が設定されました)からは,ECがIFRSと同等とみとめた場合のみEU市場での採用が認められます。

3 米国で受け入れられる連結財務諸表

米国で上場する企業はSECに登録が必要ですが,その場合,SECは,米国基準もしくは米国基準への調整付の連結財務諸表しか受け入れていません。
日本企業の場合,SECに登録する殆どの企業は,米国基準で連結財務諸表を作成しているため,米国基準への調整付の連結財務諸表というのは日本ではあまり馴染みがないかもしれません。しかしながら,実は日本以外の殆どの国のSEC登録企業は,米国基準そのものではなく,米国基準への調整付の連結財務諸表を作成しています。このため,EU域内の上場企業にIFRSの採用が義務付けられた際も,SECに登録するEU域内の上場企業は,「自国(例えば英国)基準に米国基準への調整」の形から,「IFRSに米国基準への調整」の形に変更し,SEC側も,これらの変更に対しての取扱い等を公表したものです。
したがって,EU市場で資金調達を行う米国企業が「米国基準にIFRSへの調整(補正措置)」が必要というのは,米国での対応の裏を返せば当然のことといえるかもしれません。しかしながら,こうしたECの動きは,米国ではいろいろな議論に発展したようです。
補正措置と言っても具体的にどのように行うのか,そのような情報は,EU市場の投資家のみならず米国市場の投資家にも開示すべきものであり,SECへの提出資料にも含めるべきものではないか,IFRSを採用する外国登録企業のみならず米国の企業等についても開示が必要ではないか等・・。
そのような中,逆に,こうした調整(補正措置)を撤廃することはできないかという動きも生じていました。2005年4月,EUの委員の働きかけにより,SEC委員長は,IFRSに従って作成された財務諸表の米国基準への調整を2009年に撤廃すると発表しました。

4 FASBとIASBの統合

もともと米国基準とIFRSは,サーベンス・オクスレー法の成立直後の2002年9月,米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)が統合について合意しており,統合のための様々なプロジェクトが進められています。とはいえ,それらのプロジェクトは多岐にわたり,かなり長時間を要するとみられるものもあります。
このため,FASBとIASBは,EUとSECとの2009年に向けての合意を背景に,2006年2月,会計基準の国際的統合への取り組みを再確認したロードマップを作成しました。そこでは,会計基準の統合は,長い時間をかけた高品質の基準の開発を通じて達成できるものであり,両基準の差異は,調整が撤廃される2009年の前,2008年までに必ずしも全て解消はしないものの,短期プロジェクトを終了させ統合を進展させることとしています。

5 公開草案の意味するところ

今回のSECの草案はこうしたことを背景に2009年に予定されている調整撤廃に向けて公表されたものであり,いわば予定通りのものとも言えます。しかしながらその一方で,いくつか興味深い点もあります。たとえば・・

①当該草案を夏に公表することを2007年4月に前もって公表したこと。

通常,こうした事前の公表はあまり例がないことであり,その重要さを物語っているとも言えるでしょう。

②SECは,IASBが策定したIFRSと特定していること。

CESR が行っているのはEUで採用されているIFRSとの同等性ですが,今回SECが公表している公開草案は,あくまで国際的な基準設定機関としてのIASBが策定したものについて米国基準との調整なしで受け入れることを容認するとしています。

③米国企業についてもIFRSの採用を容認するコンセプトリリースを2007年8月8日に公表したこと。

IFRSについて米国基準との調整が不要になると,IFRSと米国基準の選択が可能になりますが,この選択を,外国登録企業,すなわち,一部の企業についてのみ認めることでよいのか,他の企業,すなわち,米国企業等にも与える必要はないか,というものです。
米国基準は,長期間,国際的な基準の代表であり,世界各国のIFRSへの動きが活発化していく中でも,米国ではあくまで米国基準が使用されてきており,IFRSと統合を行いつつも,米国基準は守られ続けていました。また,日本においても,IFRSのみならず米国基準の動きは重要な影響をもたらしてきました。
こうした背景を考えると,今回のこのようなSECの提案は,どのような動きをさらにもたらすことになるのか,国際的にも,日本においても,大いに着目すべきものと言えましょう。

このQ&A は、『週刊経営財務』2838 号(2007年10月01日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。

PDF 88KB