前回の「SECのIFRS容認への動き」に引き続き,今回は,その前提とも言える米国の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)の統合(コンバージェンス)の状況についてお話をしたいと思います。
第二次世界大戦後,米国の資本市場の優位性と相伴って,米国の会計基準は長年世界の中心的な役割を果たしてきました。しかしながら,近年,米国資本市場の圧倒的な優位性にも陰りが見えはじめ,また,ヨーロッパ・アジアを中心に多くの国がIFRSを利用することになってきたこともあり,米国においてもIFRSを軽んじることはできなくなってきました。そうしたことから,会計基準のコンバージェンスを模索する必要性が生じ,国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は,2002年9月に共同会議を開催しました。
この共同会議で両審議会は,会計基準の相互の互換性をよりいっそう高めるために,①両基準間にあるさまざまな差異を削減する目的で短期的なプロジェクトに着手すること,②2005年1月時点で残る予定の両基準間の差異について,両者が個別もしくは同時にプロジェクトを実施して取り除いていくこと,③現存の共同プロジェクトを継続して進めること,④両者の解釈指針設定機関がそれぞれの活動を調和させること,を合意しました。これが,会議の行われた場所であるFASBの本部の所在地名をとって呼ばれている,「ノーウォーク合意」です。
このノーウォーク合意のうち上記①の短期プロジェクトは,両者の間にある比較的解消しやすい差異を取り上げ,お互いに基準を改定しようというものであり,既に次のような基準がFASBにおいて制定もしくは公開草案が公表されています。
2004年11月にIFRSとの比較可能性を不必要に妨げている部分を削除する目的で,FAS151号「棚卸資産原価-ARB No.43 第4章の修正」が公表されました。
2004年12月にIFRSとの差異となっていた非貨幣取引の例外処理部分を削除する目的で,FAS153号「非貨幣資産の交換-APBOpinion No.29の改訂」が公表されました。
2005年5月にFAS154号「会計上の変更および誤謬の修正」として,過年度の累積的影響額を変更の期の損益計算書で認識するという方法は廃止し,すべて過年度に遡及的に適用するという形で改訂が行われました。これで両基準は基本的に統一されました。
一株当り利益の計算における分母を両基準の間で統一すること等を主目的に作業を進めており,2008年12月15日以降に開始する事業年度から適用すべく,第3回目の公開草案が近々公表される予定です。
ノーウォーク合意を受けて,上記のような短期プロジェクトが実施され,また,その他のプロジェクトも順次実行に移されてきました。FASBとIASBは,これらの実施状況を確認し,今後の会計基準のコンバージェンスプロジェクトをよりいっそう推進する目的で,2005年4月,10月,2006年2月に会議を開催し,2006年2月27日に両者間の覚書(MOU)を公表しました。
前回ご紹介したように,米国市場でSECに登録されている米国外企業がIFRSに従って作成した財務諸表は,現在,米国基準への調整が求められていますが,SECはこれを2009年に撤廃すると公表しました。この覚書は,そのことを背景に発行されたもので,コンバージェンスプログラムについて2008年に向けてのゴールを示すものです。そのため,まず,2006年から2008年までの短期プロジェクトとして,次の項目の会計基準のコンバージェンスが図られることになりました。なお,括弧書はその現在までの進捗状況です。
A)法人所得税(2007年第4四半期には公開草案を公表する予定です。)
B)減損(まだ審議は開始されていません。)
A)公正価値オプション(2008年第1四半期に公開草案を公表する予定です。)
B)投資不動産(上記公正価値オプションプロジェクトの一部として検討する予定です。)
C)研究開発費(まだFASBのスタッフでの検討段階です。)
D)後発事象(2008年第1四半期に公開草案を公表する予定です。)
A)借入費用(2007年3月,改訂IAS 第23号として公表されました。)
B)政府補助金(関連するプロジェクト(負債等)の結論が出るまで延期することになりました。)
C)ジョイント・ベンチャー(2007年第3四半期に公開草案を公表する予定ですが,この原稿の執筆段階では公表されていません。)
D)セグメント情報(2006年11月,IFRS第8号として公表されました。)
上記以外にも覚書公表時に共同プロジェクト等として既に議題にあがっていた項目,あるいはリサーチ段階にあった項目があります。MoUでは,これらの項目については2008年末までの基準のコンバージェンスは現実的でない状況にあるものの,これらが2008年末では途中段階であっても当初の目的は達成できると考えており,2008年以降もさらにコンバージェンスを進めていく予定です。これらの項目の現在の進捗状況は以下のようになっています。
| 項目 | FASB | IASB |
|---|---|---|
| 企業結合 | 共同の審議は終了し,ほどなく最終基準を公表する予定です。 | |
| 連結 | 審議は行っていますが,FASBとしては積極的に作業をおこなっていません。 | 2008年第1四半期にディスカッション・ペーパーが公表される予定です。 |
| 公正価値測定 | 2006年9月にFAS157号「公正価値による測定」として公表されました。 | 2008年下期に公開草案が公表される予定です。 |
| 負債と資本の区分 | 2007年第4四半期に予備的見解が公表される予定です。 | FASBの予備的見解をディスカッション・ペーパーとして公表される予定です。 |
| 財務諸表の表示 | 共同で審議中であり,2007年第4四半期にはディスカッション・ペーパー等が公表される予定です。 | |
| 退職後給付(年金を含む) | 第1フェーズは,2006年9月にFAS158号「確定給付型の年金及び他の退職後給付金制度に関する雇用主の会計処理」として公表されました。第2フェーズは審議中です。 | まだ,第1フェーズを審議中です。 |
| 収益認識 | 共同で審議中であり,2008年第1四半期にはディスカッション・ペーパー等が公表される予定です。 | |
| 項目 | FASB/IASBの状況 |
|---|---|
| 認識の中止 | 2007年第4四半期に双方のスタッフのリサーチレポートとして公表される予定です。 |
| 金融商品 (現行基準の置き換え) |
共同のリサーチ課題として検討中です。 |
| 無形資産 | 2007年第4四半期に議題とすることを決定すると言う段階です。 |
| リース | 共同で審議中であり,2008年第2四半期に予備的見解が公表される予定です。 |
このように米国と国際基準とのコンバージェンスは急速に進んでおり,今,会計の世界はまさに動いていると言っても過言ではなく,今後の我が国における会計基準の改訂作業への影響も少なくないものと考えます。
このQ&A は、『週刊経営財務』2842号(2007年10月29日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。