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第7回 米国における会計原則の階層

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1 はじめに

今回は少し視点を変えて,今年5月に公表された米国財務基準書(FAS)162号の内容にそって,米国における会計原則の階層についてお話をさせていただきます。会計原則の階層とは,財務諸表を作成する場合にどの会計処理方法等を採用するか(あるいはすべきか)を判断するための基となる会計基準書及びガイドラインの対象範囲及びその適用の優先順位を表すものです。ご承知のように,米国では,米国公認会計士協会(AICPA),米国財務会計基準審議会(FASB)を始め多くの団体が会計基準やその指針を公表してきました。このため,何が「一般に公正妥当な会計原則か」を表すために,会計原則の階層の話が昔から標準的な会計の教科書には必ず掲載されています。この会計原則の階層に係る判断基準として,今までは,AICPAの監査基準書第69号(以下,「69号」という。)が使われてきましたが,今回,下記に記載のような経緯からFASBより,当該会計原則の階層に関する基準が公表されました。

2 今回の米国財務会計基準審議会による会計原則の階層設定の背景

2003年7月の米国証券取引委員会(SEC)の勧告(研究報告)に基づき,FASBは,概念規定の整備も含む会計基準の質の向上,会計基準の設定手続の改善,現行会計基準の編纂,会計基準の設定機関の集約化及び国際財務報告基準とのコンバージェンスを促進してきました。当該研究報告では,69号における会計原則の階層の改善も勧告されていました。それは,69号における会計原則の階層に関しては,次のような批判がなされていたからです。

① 69号における「GAAPに従って適正である」と言う意味は,あくまでも監査人側にたったものであり,財務諸表作成者側の立場にたったものではない。

② その内容が複雑すぎる。

③ FASBの概念基準書のランクが,業種別監査及び会計ガイドより低く位置づけられている。確かに,業種別監査及び会計ガイドは実務上幅広く受け入れられているが,正当な手続を経て制定されたものではない。これに対して,概念基準書は正当な手続を踏んで制定されたものである。

このような経緯から,FASBとしては,財務諸表作成会社側が財務諸表の作成にあたって適用すべき会計基準の階層が必要であると考え,2005年4月の公開草案の公表を経て,今回,基準の公表に至ったものです。

3 FAS 162号における会計原則の階層

会計基準選択のための階層は次のカテゴリーに分けられています。

a.FASB基準書及び解釈指針,FASB133号導入に関する刊行物,FASBの職員の見解(FSP),AICPAの会計研究公報(ARB)及び会計原則審議会(APB)意見書(但し,FASBによって廃止された基準を除く。)

b.FASBの技術公報(FTB),FASBによって承認されたAICPAの「業種別監査及び会計ガイド」及び見解

c.AICPAの「会計基準執行委員会実務公報」,FASBの「発生問題専門委員会(EITF)」の審議事項

d.FASB職員による適用指針(Q&A),AICPAの解釈指針,その他業種ごとに広く慣行として適用されているが,FASBが承認していない「業種別監査及び会計ガイド」及びその見解

ある会計事象もしくは取引に関して,上記のカテゴリーa に掲載されている基準において処理方法等が明記されていない場合,財務諸表作成者は,他のカテゴリーに掲載された基準等に該当するものがないかどうかを検討する必要があります。そして,カテゴリーb‐d に該当する会計基準等が存在する場合には,その基準が適用されることになります。カテゴリーb‐d の適用にあたっては,b からd の順に優先的に適用することとしています。

上記のカテゴリーa‐d に該当する基準がない場合には,最初にカテゴリーa‐d の中に類似の会計事象もしくは取引を取り扱ったものがないのか検討する必要があります。それでも該当する基準等がない場合に初めてその他の会計文献の適用を検討することとしています。ただ,特定の事象もしくは取引に適用するためだけに設けられ,類似の取引に適用することを禁じている基準等については,類推適用をすべきではないとしています。

なお,これらその他の会計文献の中にあっては,他に最も適切な文献が無い場合には,概念基準書が一番重要な判断基準となる旨がFAS162号においては明記されています。

4 今までの階層との差異

一方,69号において,一般に認められた会計原則は従来,下記のように分けられていました。

① AICPAが指名した機関等によって公表された会計原則

FASB基準書及び解釈指針,AICPAの会計研究公報(ARB)及び会計原則審議会(APB)意見書(但し,FASBによって廃止された基準を除く。)

② 専門家である会計士で構成された,会計上の問題点または現在行なわれている会計実務を協議する機関の意見で,草案が公表され,FASBが反対しなかったもの

FASBの技術公報(FTB),FASBによって承認されたAICPAの「業種別監査及び会計ガイド」及び見解,FASBの職員の見解(FSP)

③ FASBが組織し,専門家である会計士で構成された,会計上の問題点または現在行なわれている会計実務,あるいは②の意見を協議する機関の意見でFASBが反対しなかったが,広くコメントを得るために草案が公開されなかったもの

AICPAの「会計基準執行委員会実務公報」,FASBの「発生問題専門委員会(EITF)」の審議事項

④ 一般に認められていると広く認識されている実務又は意見

FASB職員による適用指針(Q&A),AICPAの解釈指針,その他業種ごとに広く慣行として適用されているが,FASBが承認していない「業種別監査及び会計ガイド」及び見解

このように,今回のFAS162号においても大きなカテゴリーの変更はありません。変更点としては,IFRSとの整合性も考慮に入れてFASBの概念基準を重要視し,それに基づきカテゴリー内の基準に記載されていない会計処理を判断すべき旨が明確に記載されたこと及び,どの基準がどのカテゴリーに含まれるのか分かりやすくなったことではないかと考えられます。

5 米国会計基準に基づく,現在の会計実務等に何か影響を与えるか

FAS162号は,公開会社会計監視委員会(PCAOB)が監査基準書411 章(69号を指します。),『「一般に公正妥当と認められた会計原則に準拠して適正に表示している」の意味』の修正を承認した後60日後に効力を発揮することとなります。これは,混乱を避けるために,現存の基準(69号等)を廃止してからこの新基準の効力を発揮させようというものです。

また,69号において,規定されていた経過措置をそのまま引き継ぐこととしています。すなわち,財務諸表作成会社が1992年3月15日現在適用されているカテゴリーc もしくはd に属する会計上の取扱いに準拠している場合には,高いカテゴリーの会計基準を適用するように変更する必要はないとされています。例えば,ある企業が,1992年3月15日に存在する(カテゴリーdに属する)FASBが承認していない業種別監査及び会計ガイダンスに準拠して処理がなされている場合に,AICPAの見解あるいは実務公報(カテゴリーbあるいはc)によって,より優先的に適用すべき会計基準が設定されていたとしてもそれに変更する必要はないということです。その反対に,1992年3月15日より後に有効となった会計基準に準拠している場合で,より高いカテゴリーの基準が出た場合にはそれに従う必要があります。

このQ&A は、『週刊経営財務』2878号(2008年7月21日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。

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