1. Home
  2. レポート/刊行物
  3. 会計情報
  4. 会計基準の国際化をめぐる動向
  5. 第8回 財務諸表の表示の抜本的検討

第8回 財務諸表の表示の抜本的検討

PDF 106KB

1 国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)による財務諸表の表示に関する共同プロジェクト

今回は,国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で行っている財務諸表の表示に関するプロジェクトの概要を説明します。この財務諸表の表示プロジェクト(当プロジェクト)は,当初(2001年)IASBのプロジェクトとして始まりましたが,2004年からはFASBとの共同プロジェクトとして行われています。このプロジェクトの目的は以下のとおりです。

(1)投資家,債権者及びその他の財務諸表利用者が,企業の現在及び過去の財政状態を理解する能力を高める

(2)投資家,債権者及びその他の財務諸表利用者が,過去の営業,財務,及びその他の活動内容が企業の財政状態をどのように変動させたか理解する,ならびにこれらの変動の構成要素を理解する能力を高める

(3)投資家,債権者及びその他の財務諸表利用者が,企業の将来キャッシュ・フローの金額,タイミング及び不確実性を評価するために財務諸表の情報を(他の情報源の情報とともに)利用する能力を高める

これらの目的を達成するため,当プロジェクトでは財務諸表の表示の根本的な見直しを行っています。現在の当プロジェクトにおける議論から推察されるのは現行の財務諸表の表示形式に対する大幅な変更であり,わが国の会計実務にも多大な影響を及ぼす可能性があります。なお,当プロジェクトでは個別の資産・負債の認識・測定に係る基準や注記全般にわたる論点は対象外としており,これらは個別の会計基準で取り扱うこととなっています。

2 プロジェクトの進行状況

当プロジェクトはフェーズAからフェーズCの3つのフェーズで行うことを予定しており,現在フェーズBの作業を行っています。このフェーズBでは,財務諸表上に表示する情報に関する根本的な論点を取り扱っていますが,正式に決定した事項はなく,あくまでも議論を進めている段階です。なお,フェーズAは包括利益の報告に関して国際財務報告基準(IFRS)が米国会計基準に歩み寄る形ですでに終了しており,改訂IAS1号「財務諸表の表示」が2007年9月に公表されています。フェーズCは四半期や半期等の期中報告に関する論点を取り扱うことを予定していますが,現在はまだ開始されていません。

フェーズBで現在行っている議論では,財務諸表内において表示する情報の作業様式(Working Format)として以下の表を示しています(以下,すべて2008年6月30日時点のSummary of Tentative Preliminary Viewsに基づいています)。

財政状態計算書 キャッシュ・フロー計算書 包括利益計算書
事業
・営業資産及び負債
・投資資産及び負債
事業
・営業キャッシュ・フロー
・投資キャッシュ・フロー
事業
・営業収益及び費用
・投資収益及び費用
財務
・財務資産
・財務負債
財務
・財務資産キャッシュ・フロー
・財務負債キャッシュ・フロー
財務
・財務資産収益
・財務負債費用
法人所得税 法人所得税 法人所得税
(事業と財務に関連するもの)
廃止事業 廃止事業 廃止事業
(関連税額控除後)
株主資本 株主資本 その他の包括利益
(関連税額控除後)

(注: 表中の各項目は「セクション名」を表しており,箇条書きとなっている項目はセクション内で表示が求められる「カテゴリー名」を現している)

(1)財務諸表の一体性と区分に関するマネジメント・アプローチ

当プロジェクトにおけるフェーズBの目的には,企業の財務状況を財務諸表上に一体的に凝縮して表示することと,企業の財務活動を事業活動(及びそれ以外の活動)から区別することが含まれています。上記の作業様式はこれらの目的を達成するためのものであり,異なる各財務諸表間(例えば,財政状態計算書とキャッシュ・フロー計算書の間)の項目の関係が明らかになるような財務諸表の表示を行うことを目標としています。

したがって,企業はまず自己のすべての資産,負債及び所有者持分を財政状態計算書上で作業様式のセクション,カテゴリーのどれかひとつに区分し,次にそれら資産,負債及び所有者持分の変動をキャッシュ・フロー計算書及び包括利益計算書上で同様に区分することとなります。

また,財務諸表上の表示科目レベルにおいては,異なる各財務諸表間において情報は一体的であるべきと考えられるため,実行可能である限りにおいて異なる各財務諸表上で横断的に同様の表示科目を用いたうえ,各財務諸表上でセクション及びカテゴリーを同じ順序で表示することとなります。

上記作業様式自体は,金融機関を含めたすべての企業に原則として適用されるべきものですが,企業の行う活動は企業ごとに異なっているため,資産,負債及び所有者持分の各セクション,各カテゴリーへの区分は,各企業の経営者が自社の活動を最も適切に反映すると判断した区分にしたがって行うべき(マネジメント・アプローチ)ものとされています。

(2)各セクション及びカテゴリーの内容

上述のとおり,企業はすべての資産,負債及び所有者持分を作業様式におけるセクション及びカテゴリーのどれか1つに区分することになりますが,この区分は以下の表の指針にしたがって行い,区分の規準を会計方針として開示する必要があります。

セクションまたは
カテゴリー
内容
事業セクション
・営業カテゴリー
・投資カテゴリー
経営者が継続的な事業活動の一部であると考えるすべての資産及び負債を含める。
事業活動は,物品の製造や役務の提供といった価値創造を意図して実施する活動である。
企業が事業を遂行する中心的な目的に関連するものであると経営者が考える資産,負債を含める。
主たる収益や費用を発生させる活動において企業が利用している資産や負債が営業資産,営業負債である。企業が特定の資産または負債を営業活動,投資活動または財務活動のいずれに関連するか明確に区分できない場合には,営業活動に関連するものと推定する。
企業が事業を遂行する中心的な目的に関連しないと経営者が考える資産,負債を含める。
主たる収益や費用を発生させる活動では利用しないものの,リターンを生み出すことを目的として利用する資産,負債が投資資産,投資負債である。
財務セクション
・財務資産カテゴリー
・財務負債カテゴリー
企業の事業に係る財務活動の一部と考えている金融資産,金融負債(それぞれ「財務資産」及び「財務負債」という)を含める。
財務資産は財務資産カテゴリーに含め,財務負債は財務負債カテゴリーに含める。
所有者持分セクション IFRS(および米国会計基準)において所有者持分の定義を満たすすべての項目を含める。
所有者持分項目の変動はキャッシュ・フロー計算書及び株主持分変動計算書上の所有者持分のセクションに表示する。
法人所得税セクション 国際会計基準(IAS)12号(または米国財務会計基準書(FAS)109号)にしたがい認識した法人所得税に関連する資産,負債(繰延税金資産,繰延税金負債を含む)を含める。
法人所得税に関連する資産,負債に係るキャッシュ・フローはキャッシュ・フロー計算書上の法人所得税のセクションに表示する。包括利益計算書においては,①継続事業,②廃止事業,③その他の包括利益項目,及び④所有者持分に直接記録された項目,に配分して表示する。
廃止事業セクション IFRS5号(またはFAS 144号)において定義されている廃止事業に係るすべての金額を含める。

(3)「当期純利益」と「包括利益」

当プロジェクトにおいては,従来の損益計算書上における「当期純利益」と,当期純利益にいわゆる「その他の包括利益」項目を含めた「包括利益」とのどちらをどのように表示するか,つまり,当期純利益の独立した表示を廃止し,「その他の包括利益」項目を独立したセクションとして表示することなく包括利益計算書のボトムラインとして包括利益のみを表示するのかどうか,また,その他の包括利益から当期純利益への振替(いわゆるリサイクリング)を行うかどうか,が大きなテーマとなっていました。

これについて,2008年4月のIASBとFASBの合同会議において現行の会計基準に変更を加えない方向性が提案され,その後,IASBは当該提案を受け入れることを決定しています。

3 おわりに

このように,当プロジェクトでは現在の財務諸表の表示方法を抜本的に変更する方向で議論が進められており,国際的な会計基準とのコンバージェンスを進めているわが国においても企業会計基準委員会で同様の内容の検討を進める専門委員会が設定されています。当プロジェクトでは,2008年9月までに予備的見解を公表することを予定していますが,わが国の会計基準および会計実務にも大きな影響を与える可能性があり,プロジェクトの議論の進展については注意深く見守る必要があると思われます。

このQ&A は、『週刊経営財務』2882号(2008年8月25日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。

PDF 106KB