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第9回 IAS19号「従業員給付」の改訂についての討議資料について

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1 はじめに

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は年金会計の改訂にそれぞれ着手しており,FASBは2006年9月に財務会計基準書(SFAS)158号を公表して年金制度の積立不足を貸借対照表に即時認識する会計処理をすでに採用している。一歩遅れた形でIASBも2008年3月に討議資料(ディスカッションペーパー(以下DPという))「国際会計基準(IAS)19号(従業員給付)の改訂に係る予備的見解」を公表した。このDPは,従来の国際会計基準の退職給付会計の抜本的改訂に向けての第1フェーズとしていくつかの主要論点(主に年金の積立状況=年金資産と退職給付債務の差額を即時認識すること,および年金資産の利回りにより給付額が変動する制度に係る債務の測定方法)について,予備的見解を示して,それらについてのコメントを求めるために公表されたものである。以下その内容を紹介する。

2 討議資料の主要論点

IASBのプロジェクトでは,今後第2フェーズとしてFASBと協同して年金会計基準を確定する作業が予定されていることから,本DPでは,以下の論点に絞って検討されている。

1) 確定給付約定から生ずる利得と損失の遅延認識
2) 確定給付約定の表示
3) 拠出と約定利回りをベースとする給付の会計
4) いずれか高い方の額を受取るオプション付給付約定の会計

現行のIAS19号が,年金会計が対象とする退職給付制度を確定給付制度(DB)と確定拠出制度(DC)に分けているのに対して,本DPでは現行の区分を撤廃し,これを確定給付約定(DBP)と拠出ベース約定(CBP)とに分類した点は注目に値する。特に従来DB 制度に分類されていたキャッシュバランスプランのような退職時の最終給与に比例しない制度が確定給付約定(DBP)ではなく,拠出ベース約定(CBP)として分類され,その債務の認識測定方法が従来のDB 制度のそれと大きく異なっているのが特徴となっている。

(確定給付約定から生ずる利得と損失の遅延認識)

本DPでは,確定給付制度(DB)は確定給付約定(DBP)という概念に置き換わり,基本的には従来,遅延認識されてきた年金資産と退職給付債務の価値の変動のすべてを,その発生した期の貸借対照表に即時認識することとしている。本DP はその根拠として,即時認識することが国際会計基準の概念フレームワークとIAS8号,37号など他の国際会計基準と整合することを挙げている。さらに即時認識することにより,企業の財政状態が忠実に表現され(制度が積立余剰の場合にだけ資産を認識し,積立不足の場合にだけ負債を認識する),財務諸表がより理解されやすくなり,現行IAS19号が認めているオプションが狭まることにより財務諸表の比較可能性が改善されるとしている。

また,年金資産に係る期待収益と保険数理差損益を区別することを止め,実際運用収益のみを認識することとしている。これは従来から批判のあった経営者による主観的な期待運用収益の設定による利益操作を防ぐことを意図している。

(確定給付約定の表示)

上述のように本DPでは,年金資産と退職給付債務の価値の変動を,その発生した期の貸借対照表に即時認識することとしたが,即時認識の相手勘定について以下の3つの方法を並列するに留め結論を出していない。

1) 年金資産と退職給付債務の価値の変動のすべてを,純利益(損益計算書)に含めて表示する。
2) 勤務費用は純利益に含めて表示し,それ以外はその他の包括利益に含める。ただし勤務費用に係る保険数理差異(割引率の変更以外)は純利益に含める。
3) 財務上の仮定の変更から生ずる再測定値はその他包括利益に含めて表示し,それ以外(勤務費用,利息費用,運用収益)は純利益に含める。

(拠出と約定利回りをベースとする給付の会計)

本DPでは,キャッシュバランスプランのように拠出とそれに対して一定の約定利回りを付すような制度を拠出ベース約定(CBP)として分類する。拠出ベース約定とは累積フェーズ(現役として勤務する期間)における給付が次の2つから構成される約定をいう。

1) 各報告期間について,権利確定リスクまたは人口統計上のリスク以外は当該期間の期末日において既知である実際または名目的拠出の累計額
2) 資産,資産グループまたは指数に連動している実際または名目上の拠出からの約定利回り

また,確定給付約定(DBP)を拠出ベース約定以外のものと定義している。
上記の拠出ベース約定の構成要素の条件1)から,将来の昇給率は期末において既知とはいえないため最終給与比例の制度(給与リスクを含む約定)は拠出ベース約定に含まれない。なお,従来の確定拠出制度も拠出ベース約定に含められるが,その会計処理は原則的に変更されない。

拠出ベース約定の測定についてであるが,本DPでは給付約定の条件が変化しないと仮定して,公正価値で評価すべきとしている。そしてその測定においては,将来キャッシュフローの見積もり,貨幣の時間的価値の影響,およびリスク(資産ベースリスク,人口統計上のリスク,信用リスク)の影響の属性を含めることが,有用な情報を財務諸表利用者に提供するという目的に適合しているとしている。

(いずれか高い方の額を受取るオプション付給付約定の会計)

いずれか高い方の額を受取るオプション付給付約定とは,たとえば従業員の各年の給与の5%相当額が拠出され,拠出額に所定の株価指数に基づく収益率で計算した利息額を加算した金額の一時金給付と,各年の勤務に対して最終給与の5%の一時金給付(給付建約定)のいずれか高いほうを支払う約定を有するような制度をいう。

いずれか高い方の額を受取るオプション付給付約定の会計処理について,本DPでは「いずれか高い方の額を受取るオプションを別個に認識する」としている。すなわち,

1) 主たる約定(給付建約定)を給付建約定として認識・会計処理し,
2) いずれか高い方の額を受取るオプションを別個に公正価値で測定する。

3 おわりに

上述したIASBの本DPに対するコメント締め切りは,2008年9月26日である。本DPは本稿で触れた論点を中心に15の質問項目を設けて広くコメントを求めている。

本DPでは従来の確定給付制度と確定拠出制度という分類を,確定給付約定(DBP)と拠出ベース約定(CBP)という分類に変更して,確定給付約定の債務の認識・測定の問題は将来のフェーズ2において検討するとして拠出ベース約定についての認識・測定を中心に扱っている。その結果,最終給与比例(給与リスクのある)制度を確定給付約定として給与リスクのない制度を拠出ベース約定として分類しているが,わが国の制度に照らして考えても,ポイント制による一時金制度やキャッシュバランスプランが拠出ベース約定として分類される可能性が高く,これらの制度と確定給付約定に分類されるその他の退職給付制度の会計処理が大きく異なる提案がされており,このことが財務諸表の利用者にとって果たして有用な情報となるかは議論が分かれると思われる。

とりわけ,拠出ベース約定の退職給付債務について公正価値による評価を提案しているが,現在進行中の国際会計基準における公正価値に関する検討プロジェクトの完成を待たずに年金会計だけを先行させること,また,年金債務の会計的本質や期間配分方法に関する根本的な議論はフェーズ2で検討するとしている中でフェーズ1において,一部(拠出ベース約定)についてだけ抜本的な改訂を行なっている点に特徴があり,今後さらに検討が進められるべきものと考えられる。

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2888号(2008年10月6日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。

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